設計事務所の工事監理とは?
■ 工事契約すると、Sはあなたと打合せします。
「設計中の変更は消しゴムで消して、新しく書き直せば良いですが、着工すると現場
に建っている柱をいくら消しゴムで消そうとしても、柱はなくなりません。」
T:建主さん(あなた)
S:専業設計事務所・・・設計・監理(施工はK)
K:工務店さん・・・設計・施工
H:ハウスメーカーさん・・・設計・施工
(上の凡例を以下の記事中、敬称を略して使用)
「これから着工しますが、設計中に気になっていたこと、言うのを忘れたこと、決めたけど変更したいことがありましたら、遠慮なく言ってください。」
「設計図に書いたことを、これから工程に沿って、本当にそれで良いか否かを一つ
ずつ確認しながら工事を進めますので、その時々に話していただいてもけっこうで
す。」
あなたとこのような打合せをしてから、第1回の工程会議に臨みます。
■ 契約直後から工事完了まで毎週1回、工程会議をします。
出席者はKの担当者、下請けの電気、設備担当者とS(監理者)です。
工事の総責任者はKの担当者で、その下に各下請の担当者がつきます。
工事は建築、電気、設備に分け、建築にはさらに十数社の下請けがつき、それら全てをKの担当者がまとめます。
各担当者は職人さんを指示する人が一般的だが、両方を兼ねるときもあります。
あなたはSと打合せし、工程会議には入りません。
工程会議は、Sと上記3者が集まって、相互に関連することについて話をします。
たとえば、エアコンの位置を決めるとき、4者がいないと決まりません。
設備が欠席で決めると、後日、設備から「そこは困る。」ということで、話が最初
に戻ることが多いからです。
その他、必要に応じて、個別に別の日に打合せします。
電話は毎日で、2日に1回は会って打合せしています。
ただ、全て決まってしまう工事後半になると、「あとは、打合せ通り工事するの
み」ということで、その回数は減りますが、週1回の工程会議は必ず行います。
何もないと思っても、必ず何かあるもので、本当に何もないときはすぐに解散する
か、世間話などをします。
■ 工程会議って何をするの?
工事に関する全てを打合せする場です。
第1回目は、各担当者との名刺交換から始まります。
以前会った人でも、改めて名刺交換しています。
こうすると、お互いに知っていても、新たな気持になり、緊張感を持てるからです。
次に、あなたの家で特に注意して欲しいことがあるので、設計趣旨や工事上注意してもらうことを説明します。
設計図があるのに、そんなに打合せする必要があるのか ?
それが、たくさんあるんです。
◆ 第一に、見積りするために建材のメーカー名、製品名を設計図に書いてあるが、
色までは記入していないので、現物サンプルを工程に沿って提出してもらい、あなたと打合せしながら順次色決めしていきます。
製品名まで書いても、それには何種類かの色があるので、それを決めないと決めた
ことにならず、発注もできません。
K・Hの設計施工では、契約前に全部色決めしてしまうのが多いようですが、私は工
程に沿って決めた方が変更もなく、良いと思っています。
着工していない設計段階では、いくら想像力豊かなあなたでも、全ての建材の色決め
なんてできるはずがないと思うのですが・・・。
しかし、家の全ての壁・天井の壁紙が白・白・白の家なら屋根、外壁、フローリン
グの色さえ決めれば良いので、それは可能ですが・・・。
◆ 第二に、技術的な打ち合わせです。
設計図を見たことがありますか ?
よく、「設計図通りにつくってください。」と言います。
設計図だけでそのようにつくれると思いますか ?
実は、下請者が設計図を見ればつくれるほど設計図は詳しく書いてないのです。
こんな感じにつくるようには書いてありますが、この通りにつくるとまでは詳しく
書いてないのです。
こんな感じにつくるだけなら、設計図だけで家を建てることができます。
しかし、この通りにつくる、のであれば、各下請者が見ればその通りにつくれるよう
に、設計図に従った新たな詳細図が必要です。
それを施工図(せこうず)と言い、各担当者が書きます。
家をどうやってつくるかというと、一度、家の全工事を基礎、木、サッシ、木製建
具、内装、電気、設備などの工事に分割し、着工後にそれらの工事を下請者が工程
順につくるのです。
平面図には線と数字と文字が書いてあり、複数の工事を表示しています。
しかし、下請者は自分の工事分だけ書いてあった方がつくりやすいのです。
それで、自分の工事分の施工図は自分で書いて、監理者の承認を受けてから工事す
るようになっています。
たとえば、基礎施工図は基礎だけ書いて、他工事は書きません。
施工図は、縮尺を変え、設計図より拡大して見やすくし、寸法を重視した詳細図に
して、工事しやすくします。
施工図は工事ごとに書く(1工事で数枚)ので、全部で数十枚になります。
以前、建設コンサルタントに勤務していたとき、土木設計図を見たことがあります
が、寸法の捉え方、寸法・文字の書き方、図面の種類など、建築と全く異なる図面
でした。
忙しいから手伝えと言われても、とても書けるとは思えませんでした。
設計図はSが書き、施工図はKと各工事の担当者が書きます。
担当者が建築ルールに沿って施工図を書くとしても、数十枚に分割表示すれば、つじつまの合わない部分が生じます。
それをそのままにしておくと、各工事間で不都合が生じます。
たとえば、エアコン位置を変更して、電気担当者に知らせないと、エアコンの電源
が変更前の位置にあるので、不都合が生じます。
エアコンを取付けるときにそれが分かったら、出来上がっている壁を解体して電源
をつくりなおさねばなりません。
Kと各工事の担当者で打合せして施工図を書き、Kがチェックし、つじつまの合う施工図にしてからSに提出し、最終的に、総合的にSがチェックします。
Kが施工図をチェックせずに私に提出しているのが明らかなときは、
「私は現場担当者ではないので、あなたがチェックしてから提出してください。」
と言って、施工図をチェックせずにお返ししています。
こうするKで良かった現場はありません。
Sが施工図の不都合な箇所を見逃しても、つじつまの合わない施工図をSに提出して
はいけないことになっているので、Sはその責任を負わないのが一般的です。
しかし、そのようなことが数あれば、やがてあなたが知り、
「しっかり現場を監理してください !」
とお叱りを受け、信頼を失います。
木造住宅は、打合せするまでもない、施工図を書くまでもない、工事常識的なこと
も多く、言葉で確認できることもあるので、全ての施工図を提出してもらうことは
ありません。
工程に沿って工事上、必要と思う施工図を提出してもらいますが、それでも、かな
りの図面数になります。
◆ 第三は、現場での技術的な指示、検査です。
承認した施工図通りにつくれば良いが、工事するときの細かい技術基準が定められ
ている工事、箇所があります。
その通りにする方が、しないよりもつくりにくいし、手間も多くかかるので、それ
を知っていて守らないとき(手抜き工事)もあるし、それを知らないで工事する(知ら
ず工事)ときもあります。
そのような工事にならないよう監理(指示、検査)します。
手順は次の通りです。
工程表を見ると、いつ、どのような作業が行われるかが分かります。
その作業前に、技術基準からの注意点、私の監理経験からの注意点、この現場に限
った注意点を現場担当者に話(指示)します。
その後、作業が完了してから、検査して確認します。
たとえば、技術基準による基礎のベース配筋の方法と、過去に経験、指示したコン
クリートかぶり厚さの確保の方法などです。
鉄筋の径、ピッチが良くても、適切な高さでなければ入れた意味がありません。
配筋完了後に、指示通りに配筋していることを現場で確認するのが、配筋検査です。
あなたは、Sが現場に行く回数や、いる時間が少ないように思うかも知れませんが、
工程会議で打合せし、現場はそれを確認するために行くだけなので、毎日行くこと
もないし、行っても検査が終われば帰ります。
なぜ終わると帰るのか、と言うと、作業している近くにSがいると職人さんが仕事
がやりにくいらしいのです。
これは私だけかも知れませんが、それで良いと思っています。
作業をチラッとみるだけで、ちゃんとやっているかどうかが分かるので、長く見る必要がないのと、指摘することがあればKに言うからです。
とは言っても、見ているときもあり、そのときは無言で見ていることはなく、職人
さんに話かけて気持をほぐすようにしています。
そうすると、私が何を考え、何を見ているかが分かるので、安心するようです。
現場で打合せするときもあります。
ある部分の見た目をきれいにつくることをおさまり(納まり)を良くすると言います。
想像して設計図を書きますが、ある部分をうまく納めるのに打合せが必要なとき、現場にその部分ができているなら、見ながら打合せした方が設計図で打合せするより分かりやすいので、そうすることがあります。
「では、現場を見て決めましょうか。」
現場の打合せはこのようなときくらいで、あとは工程会議での施工図の打合せで決
めています。
大きな工事現場のとき、常駐監理するときもあります。
常駐監理は派遣社員のように工事中、その現場専用の監理者を配置することで、毎
日事務所に通うかわりに、現場に通います。
それは建主さんが望んだとき、Sがその必要があるとしたときですが、この場合は
通常の設計監理費の他に、常駐監理費が必要です。
住宅は、この必要がないので、常駐監理することはありません。
◆ 第4は、人間関係です。
あなたも、Sも、Kも、各下請者も人間です。
それら多数の人たちが、数ヶ月間多数回の打合せ、施工図チェック、現場検査など
の密接した関係を継続すれば、人間関係のあつれきが生じるので、適切な距離を置
いて緊張関係を保つとともに、なごやかな雰囲気も必要です。
Sが常に上の立場でガンガン言い続けるなら現場人たちは萎縮し、逃げ腰になり、
やる気を無くすので良い家にはなりません。
これらを良好な関係に保つようにコントロールする(できる)のは、立場的にSなの
で、いろいろ配慮しながら監理します。
■ 第5は、工事中に発生する追加工事費の処理です。
設計施工のときは、心当たりがあってもなくても、必ず追加工事が発生していると
思った方が良いでしょう。
工事完了して契約残金を払うとき、まとめて請求されますが、それはあなたの予想
をはるかに越えた金額になるのが一般的です。
設計監理なら、心当たりがない追加工事が発生しないのか、と言うと、Sは設計図、
明細書、工事内容などの全てを把握していて、工事中に追加になるようなことはし
ないので、追加工事は発生しません。
仮に発生したときは、Kと協議して追加工事にならないようにするので、あなたが
追加工事費を請求されることはありません。
あなたが工事中に変更したことで追加工事が発生するときがあります。
Sはそれが追加工事になること、金額がいくら(くらい)になることをお話して、承
諾を受けてから現場に指示しますが、この分の追加工事費は当然支払わねばなりま
せん。
以前、ある建物が完成して間もない頃、他の建設会社の社長さんと道で会ったとき、
「所長さん、あの工事、2割くらいの追加があったでしょう !」
と言われました。
そのとき私は、
「その建設会社はいつもそのような工事をしているのだろう。」
と思いました。
■ このように、監理者は工事全般を総合的に把握し、あなたの承諾のもとに、工
程に支障ないよう決定、指示、確認(検査)をしています。
建築基準法上、技術基準上の検査など、すべきことは定められていますが、それを実際にどのように行うかということは細かく決めていないこともあるので、監理者によってそれらのやり方が違います。
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